――― Marky on the WEB
青木将幸ファシリテーター事務所

2011/9/25

聴覚障碍者と会議をする時の工夫リスト バージョン1.2 

作成:青木将幸(ミーティング・ファシリテーター)

1)聴覚障碍者は日本に何万人?

みなさん、こんにちは。ミーティング・ファシリテーターという仕事をしている青木将幸と申します。
聞き慣れない方もいるかと思いますが、ミーティング・ファシリテーターというのは、いわば、会議の進行役のような仕事で、いろいろな地域や団体におじゃまして、そこの会議を進行しています。皆の参加や発言を促して、共通認識をつくってゆくという、なかなか面白い仕事です。

ここ最近、聴覚障碍を持った方々と出会い、一緒に会議をしたり、ワークショップをすることがありました。
僕の会議のモットーは「全員が参加でき、貢献できる会議」なのですが、初体験で、いろいろと勉強になったり、難しい壁にもぶちあたりました。その時は、要約筆記の方や当事者の方に色々と教わって、なんとか事なきを得たのですが、この知見は、他の多くの人に共有したいなという思いが沸いてきて「聴覚障碍者と会議をする時の工夫リスト」として、整えてみることにしました。

メールやツイッターなどを通じて何人かの方にアドバイスをいただき、ようやくここまで完成しつつあります。まだまだ、不十分なところもあると思いますので、ご覧頂いたうえで、足りないところは、ぜひご指摘下さい。

ところで、聴覚障碍を持っている人って、日本に何人いると思いますか? 

厚生労働省が5年に1度、実態調査をしていて、身体障碍者手帳を持っている人で約36万人います。これは、日本人が1,000人いたら、3人は聴覚障碍を持っているという数。車いすや白い杖があるわけではないので、ぱっと見ただけでは見分けがつきにくいでしょうが、皆さんがお住まいの地域でも、きっと何人もいるはずです。

手帳を持ってなくても、耳の不自由な高齢者など「話すのにやや不便を感じる」という方を含めれば600万人とも、それ以上とも言われています。

私たちが会議や話し合いをするときに、こういった方々と同席する可能性は充分にあります。しかし、どういうことに配慮すれば、彼ら・彼女らが参加しやすく、会議に貢献しやすいのかについては、あまり知られていないんじゃないかと思います。このリストを一つの参考にして、皆が参加でき、貢献できるよい会議が増えていって欲しいなと思います。

 

2)聴覚障碍者をひとくくりにしない

聴覚に障碍があるといっても色々です。なかには言語を獲得する以前から聞こえなかった人もいれば、事故やストレス、薬の副作用等で、中途失聴(人生の途中で聞こえなくなること)になった人もいます。

以前、僕の頭のなかには「聴覚障碍がある人? じゃあ、手話をするのね?」という図式がありましたが、聴覚障碍者の全員が「手話」を使うわけではありません。

主に補聴器を使う人もいますし、人工内耳を入れている方もいます。じゃあ補聴器をつけている人の全員が、会話を聞き取れるかというと、そうでもなく、クラクションの音などがかすかに聞き取れるので危険察知のために活用しているという人もいます。

話しぶりや人の唇の動きをよく見ることで、発言の内容を断片的に把握する人もいます。これは読話(どくわ)と言うそうです(一般用語では、読心術として知られているあれです)。

要約筆記というサポートが入ることで、話されている内容をキャッチできるようになります。要約筆記というのは、話されている言葉を文字にして、聴覚障碍者に伝えること。要約筆記もいろいろで、隣に座って紙に手書きすることもあれば、OHPやOHCなどを使って大勢の人に見えるようにすることも可能。パソコンに文字を打ち込み、プロジェクターで写し出すということもあります。

手話や、要約筆記については専門の機関があり、派遣を依頼することができるで、調べてみましょう。
参考「東京手話通訳派遣センター」 http://www.tokyo-shuwacenter.or.jp/index.html

音声会話に不自由しない人=聞こえる人のことを「健聴者」もしくは「聴者」といいます。

 

3)こんな工夫はどうでしょう?

というわけで、さっそくですが、工夫リストを紹介します。現段階で17あります。

1,まず、当人に聞く
→当然のことながら、聞こえ具合や、やってもらうと助かる方法は人によって違います。「前で出会った聴覚障碍者はこうだったから、多分今回もこうだろう」とひとくくりにせず、事前に当人に聞くのが一番。「どんなサポートがあると、助かるか?」「今回の会議では、こんな風に進めようと思うけれど、どうするともっとよいか?」などを聞いて、適切な方法を当人と一緒に選びたいものです

2,会議の冒頭に確認する
→会議を始めるにあたって、今日、どんな人がここにいるのかを確認します。聴覚障碍を持った人との会議に慣れている人もいれば、慣れていない人もいます。どれくらい聞こえて、どういう配慮があるとコミュニケーションしやすいかを参加者全員で共有します。

3,ゆっくり・はっきり話す
→早口で、ばばばーっと話したり、モゴモゴとあいまいな発言だと、補聴器でとらえにくかったり、手話通訳や要約筆記が困難です。少し意識して、ゆっくり・はっきり話すようにします。なるべく口元を見せて、当人に向かって話すのがベター。

4,指示語をなるべく減らす
→「そのへんはね、あれが、これと近いわけですよ」などと指示語が多いと、話の関連性がわかりにくくなります(とりわけプロジェクターの図解を指さしている時や、付箋紙をグルーピングしながら話し合う時などに多い)。指示語ではなく、具体的に言い表すようにしましょう。

5,他人の発言に割り込まない
→同時に複数の人が発言してしまうと、会話を追えなくなってしまいます。他人の発言に割り込まないようにご注意を。1人ずつ発言するようにします。このへんは会議の進行役がうまく采配して、発言の順番を整理したり、同時発言を止めたり、あいまいな発言を言い直したりすることでサポートができます。

6,誰が話しているかを明示する
→声だけで発言者を判別するのが困難なので、今、誰が発言しているのかを明らかにします。「発言は挙手をしてから」とか「司会者から指名されてから」「各自、自分の名前を言ってから発言する」などの発言ルールを制定する手もあり。マイクや、トーキング・オブジェ(発言する人が手に取る棒や石など)を使うのは、視覚的にも誰が話しているかを追いやすく、また、同時発言を防ぐので有効です。

7,発言を書く →ポイント板書
→議題や発言の要旨をホワイトボードに書いゆくのも手です。今、どんな議題を話し合っていて、どんな意見が出て、どんな結論になりつつあるかを可視化するのは、会議参加者全員にとっても意味あること。例えば、採決を取る時も、「じゃあ、ここにある選択肢1の<××を△にする>に賛成の人は?」などと聞き、挙手を求め「○人が賛成」などと書いておくとよくわかります。
会議分野で知られている「ファシリテーショングラフィック」や「ホワイトボードミーティング」の技法がその効果を発揮します。これらについては、研修や専門書があるので、関心のある人は、深めて欲しいところです。

参考:『元気の出る会議〜ホワイトボードミーティングのすすめ方』   解放出版社
   『板書の極意 ファシリテーショングラフィックで楽しくなる会議』アメニモ

8,雑音を減らす
→補聴器を使っている人にとって、雑音は気になるノイズ。三色ボールペンをカチカチさせたり、資料をパリパリいわせないように気をつけます。机やイスをひっぱる時の「ガガガ」という音がつらいという人もいます。古いテニスボールをイスの足にはめて、静かな音環境をつくる工夫もあるようです。冷暖房や換気扇の音がノイズになる場合もあるようです。聴覚障碍を持った人が座る位置は、当人が自由に選べるようにしましょう。そうすることで、比較的音環境のよい所に身を置くことができます。

9,意思表明カードを使う
→ちょっとした意思表明ができるカードを使う方法もあります。例えば青のカードは「賛成」、赤のカードは「反対」、黄色のカードは「分からない/微妙に悩む」とか。これを全員で出すと、皆の意見が視覚的に共有できます。僕が出会った難聴者の方は、「ゆっくり」「もう一度」などと書いた、うちわを活用して、皆に協力を求めていました。こういうカードがなくても「ちょっと待って」と言いやすい環境をつくっておきたいものですが、あればあったで出しやすくなるという側面も。

10,間を取る
→要約筆記や、手話通訳をつけても、通訳を見て、理解をするので、どうしてもタイムラグがあります。なので、発言を終えたら、ちょっと間を取るようにします。「これについてどう思いますか?」といった問いかけをしたあとも、すぐに「ありませんね、じゃあ次は、、、」と次の話題に行くのではなく、少し間があると、読んだり考えたりする時間をとれるので、発言しやすくなります。(ただし、発言の文中で止めてしまうと、ちょっと通訳しにくいので、一文すべてを言い終えてから間をとります)。

11,つめこみすぎない
→という意味でも、会議の内議題をあまりつめこみすぎず、時間にゆとりをもっておくことが肝要。これは健聴者同士の会議でも、そうありたいところです。

12,休憩をとる
→会議には集中力を要します。1時間ごとに5-10分ぐらいのペースで、休憩をとるよう心がけましょう。

13,照明を合図にする
→休憩あけの会議再開の時(もしくは、会議の開始の時や、グループワークの終了時など)に、部屋の照明を点滅させて、知らせることがあります。照明を合図に使う旨を確認してから、やってみてはいかがでしょうか。

14,発言をふる
→聴覚障碍者は言いたいことがあっても、タイミングを逃すことが多くあります。シンプルに「○○さん、ここまでのところ、どうですか? 何かありますか?」とふるだけでも言いやすくなります。

15,配付資料にはナンバーを
→配付資料にナンバーを振りましょう。複数枚資料がある時は、通しでページ数をふったり、「・」や「○」などで、箇条書きにしているものを(1)、(2)、(3)と変えるだけでも、参照しやすくなります。

16,動画は字幕付きで
→会議の参考情報として、ビデオやDVDなどで動画を再生することがあります。その場合はなるべく字幕の付いたものを選ぶようにしましょう。字幕がない時は、事前に音声部分をテープ起こしして、プリントしておくと内容が把握しやすくなります。

17,聴覚障碍を持っている人も主体性を発揮しやすい環境を
→どうしても、健聴者がアドバンテージ(優位性)を持っていて、聴覚障碍者は、いつも受け身になりがちです。「健聴者の会議についてゆく」「健聴者に待っていてもらう」という感じになりがち。こういう優位性を逆転できたり、聴覚補償や情報保証をしっかりとした時間が増えると、全員が活躍できる会議になりそうです。
例えば、以前、「聞こえない状態での会議を体験してみよう」という時間を持ったことが、があるのですが、大変有意義な時間でした。また別の機会に「言葉を発せず、全員がペンを持って、この模造紙に言いたいことを書き込んで、人の発言にどんどんつなげて書いてみましょうか」とやったこともあります。これも実に示唆に富む時間となりました。色々な工夫を通じて、お互いのことが理解しあえるとよいなと思います。

 

4)終わりにあたって

というわけで、現段階で僕が教わったのは、上記のようなことです。
他にもあるよとか、これは違うよ!ということがあれば、ぜひ教えて下さい。

これらの工夫リストに加えて、もっと広く聴覚障碍への理解が広がることが、根本的な改善につながるのだと思います(それ以外の様々な障碍についても同様ですが)。

例えば、今回、この工夫リストをつくるにあたって、初めて知ったことなのですが「磁気ループ」という仕組みがあります。これは、公共施設や会議室、イベントホールなどに入っている仕組みで、フロア全体から音声を拾って、雑音の少ない状態で聴覚障碍者の耳に音声が届く仕組みとのこと(もちろん、それを受けられる機械を持っている必要があるけれど)。このような設備を整えた会議室が日本中に増えてゆくことで、よりスムーズな参加も可能になると思います。

1000人に3人というのは、皆さんにとって少ない数でしょうか? 数は少なくとも、私たちと同じ地域に住む大切な仲間です。せめて、ともに話し合う時の作法として、こららの工夫リストを共有しておこうと思います。

みなさんが関わる会議が、誰もが参加し発言しやすく、アイデアや活気の溢れるものでありますように

謝辞:この工夫リストをつくるにあたって、様々な方からアドバイスを頂きました。当事者の方や、要約筆記をなさっている方、NPO東京都中途失聴・難聴者協会、全国要約筆記問題研究会、東京手話通訳等派遣センターなどの専門機関の方からも、改善のための温かいアドバイスを頂きました。心よりお礼申し上げます。

連絡先:青木将幸ファシリテーター事務所 〒181-0003東京都三鷹市北野4-2-26-102 
marky◆aokiworks.net ◆を@に変えて下さい http://www.aokiwoks.net